第五分科会

写真:銀閣寺 from 京都フリー写真素材

「原子・分子間相互作用と原子・分子衝突の基礎

~化学反応への原子分子物理学のアプローチ,太陽風電荷交換反応と極低温イオン移動度の理解を目標に~」


  • 講師:田沼 肇 先生 (首都大学東京 教授 : 研究室HP)
  • 担当:中村 勝之介 (東京大学 佃研究室 M2)
  • 担当連絡先:sec5_at_ymsa.jp (※担当連絡先はお手数ですが「_at_」を@に変えて頂きますよう、よろしくお願い致します。 )

紹介文

一つの分子が構造を変えたり分解されたりする単分子反応というものもありますが,普通の化学反応は遠く離れた二つの粒子が近づくところから始まります。従って,化学反応は原子・分子レベルでの「衝突」と見なすことができます。しかし,理論的な「衝突」あるいは「散乱」は標準的な物理化学の授業で扱われることはなく,中級以上の量子力学で学ぶ内容であるため,化学を専攻している学生には少し敷居が高いかも知れません。一方,量子力学に基づく散乱理論が高い近似で適用できるのは原子核が2つの系までであり,普通の化学反応を記述するにはかなり大胆な近似が必要です。殆どの場合,原子核の運動については古典的に扱い,電子状態だけに量子力学を適用するという方法が採られます。これは量子化学で有名なBorn-Oppenheimerの断熱近似に他なりません。実際,大型加速器を用いた衝突実験でもない限り,多くの原子分子衝突における原子核の運動速度は電子の古典的速度よりも遙かに遅く,気相・液相での化学反応における分子の運動と同じように扱われています。そこで,この講義では量子力学的散乱理論を全く知らない学生を想定した上で,化学反応の理解にも役立つ衝突理論について基礎から解説します。

原子分子の衝突における原子核の運動を支配するのは,二つの粒子の間にはたらく相互作用ポテンシャルです。そこで,最初に二つの分子の間にはたらく相互作用について解説します。次に,散乱理論について古典論,量子論,半古典論という3つの段階を順に取り上げていきます。基本になるのは衝突の前後で粒子の内部状態が全く変わらない「弾性衝突」ですが,それに対する理解無しには「非弾性衝突」や「反応性衝突」には進めません。断熱近似に基づいて量子化学的に計算される相互作用ポテンシャルを実験的に求める方法を学ぶのだ,と考えて,前向きに取り組んで貰えればと思っています。続いては,衝突によって電子状態が変化する現象の理解の方法を説明します。そこでのキーワードは「非断熱遷移」です。つまり,断熱近似が破綻することで電子状態が変化するという考え方です。ここでは,衝突による電子励起・電子脱励起に加えて,電子が乗り移る電荷移行反応について特に詳しく解説します。これよりさらに複雑な化学反応については,散乱理論からのアプローチには限界がありますが,何がその原因なのか,どうすれば壁を越えられるのか,考えてみたい思います。

私自身は低エネルギー領域におけるイオン衝突実験を専門にしています。太陽風が彗星と衝突してX線を放出する現象を地上で再現したり,星間空間と同程度の極低温でイオンと中性粒子を衝突させたりしていますが,最近は連星中性子星合体による重元素合成に関連した研究も行っています。宇宙に関係した原子物理の研究,つまり「実験室宇宙物理学」が中心と言えますが,半導体リソグラフィー用極端紫外光源開発や化学兵器検知装置の開発に関わった経験もあります。これら自分の研究を紹介するために必要な基礎的な知識を提供するような講義になるので,最後には実際の研究例を少し示したいと考えています。


担当者コメント

第五分科会では首都大学東京の田沼肇先生をお招きし、「原子・分子間相互作用と原子・分子衝突の基礎」という題で講義を行なっていただきます。田沼先生は原子物理学から天文学・宇宙物理の領域まで手広く研究されていて、現在ではイオンの衝突と分光を専門にされています。

分科会では原子・分子の衝突の基礎から、先生が研究されている宇宙空間での衝突までお話しいただきます。化学を専門にされている学生にとって量子力学はあまり馴染みのない分野かもしれませんが、その基礎を初学者にも分かりやすいように解説していただけるそうです。この分科会で学べる内容は化学反応の理解にも役立つとのことで、量子力学に苦手意識を持つ方にもぜひ参加していただきたいと考えております。自分で一から勉強するのはなかなか難しい分野でありますので、この機会に量子力学を学んでみてはいかがでしょうか。皆様のご参加をお待ちしております。