第二分科会

タイトル

「プラズモンの分子科学:電子集団運動の起源とその機能」

  • 講師:安池 智一 先生 (放送大学 教授)
  • 担当:中嶋 武(横浜国立大学 大野かおる研究室 D2)
  • 担当 連絡先:sec2_at_ymsa.jp

紹介文

プラズモンと呼ばれる電子の集団励起は,その集団性に起因する敏感な光学応答によって,各種光学過程を増感するほか特異な化学反応を誘起するなど,近年分子科学の分野でも広く利用されるようになってきました.それではちょっと勉強してみようかとプラズモン関係の書籍をのぞいてみると,化学系ではあまり馴染みのない古典電磁気学に基づく議論が並んでいます.元素ごとの特徴は誘電関数に押し込まれ,モノの個性はマクロな形状だけが考慮されています.量子力学に基づく光と分子の相互作用の議論に慣れた皆さんは面食らうかも知れません.また,分子やクラスターの光励起に類似したナノ粒子の局在表面プラズモン以外にも,金属表面のような半無限系における伝搬型のプラズモンポラリトンなど,分子の世界からの類推ではとっつきにくい話も少なくないようです.

本講義では,まず導入として,そのような古典電磁気学に基づくプラズモンの基礎をおさえ,その特徴を掴み,プラズモンがどのように利用されているのかについて皆さんと一緒に学びたいと思います.その上で,より微視的な系の理解に必要な量子多体系の集団運動としてのプラズモン励起の理論的取り扱いを紹介します.ナノ粒子よりも小さなクラスターや,表面に生成した単原子層などの原子スケールの構造におけるプラズモンの記述にはやはり量子力学的取り扱いが必要です.電子状態理論の復習にもなるよう基本的なところから進める予定です.

具体的なトピックとしては,以下のようなものを考えています.

(1)量子論的な波動関数の描像においてプラズモンとは一体どのようなものか.電子の集団

運動とは.

(2)プラズモン励起が生じやすいのはどのような系か.

(3)表面原子層におけるオーバーレイヤープラズモンとその寿命

(4)プラズモン励起ラマン散乱による一分子計測

(5)基板プラズモン励起による特異な化学反応

これらはそれぞれ私が研究で扱ってきたものですが,関連研究にも触れながら進めることでプラズモンの関係する分子科学の幅広いトピックについての感覚を掴むことができればと思います.また最後に,集団性の背景にある電子構造の隠れた対称性(dynamical symmetry)についても紹介したいと思います.プラズモン励起を示す系においては多くの個別励起がエネルギー的に擬縮退しており,その縮退度は系の幾何学的対称性から導かれるものより一般に大きく,これは動的対称性の存在を示唆するものです.動的対称性を扱うのに有用なリー代数の基礎を学んだ上で集団性の背景にある数理に迫りたいと思います.やや欲張った計画ですが,初学者にも配慮して進めますので,ちょっとでも興味のあるトピックがあるなという方は是非ご参加ください.

第二分科会担当者コメント

第二分科会では,放送大学より安池智一先生をお招きします.

安池先生は,金属ナノクラスターが示す局在表面プラズモンに関して第一原理計算を用いて,精力的に研究をされています.

プラズモンとは,金属内の自由電子が集団的に振動する量子状態を指す準粒子的描像の一つで,様々な特異な光学的応答を示すことで知られています.古くは 17 世紀に作られた美しい色を示すステンドガラスに遡り,近年においては金属ナノ粒子が示すラマンスペクトルの増強が注目を集め,細胞の増強ラマン分光イメージングなどに利用されることが期待されています.医療分野への応用も進んでおり,局在表面プラズモンを利用したアルツハイマー病の検知や商業的にも表面プラズモン-ポラリトンのバイオセンサーなどへの利用が進んできています.以上の例などから分かるように,様々な応用可能性を持つプラズモンは非常に魅力的なものになっており,従来の結晶やナノ粒子だけでなく,非常に小さい金属クラスター系の基礎研究も盛んに行われるようになってきました.

プラズモンの理論的取り扱いに関する特徴は以下のような点が挙げられます; 金属表面や直径~50 nm以上の金属ナノ粒子表面上でのプラズモンはマクスウェル方程式や誘電函数、連続体近似を用いて扱われ,非常に良く実験結果と一致することが知られています.しかしその一方,直径~50 nm以下の金属ナノ粒子やクラスター表面では,この半古典的な取り扱いでは実験結果とうまく一致しません.

安池先生の研究では,このような電子の連続体としての取り扱いができなくなり,明らかな量子的な取り扱いをする必要性が出てくる非常に小さい系に対し,シミュレーションを用いて金属ナノクラスターの持つプラズモンの特異的な性質を明らかにしてきました.

本分科会では,プラズモンについて基礎的な部分から最先端の研究に関してまで,丁寧に安池先生にご教授していただく予定です.また,プラズモンの起源とも言うべき動的対称性にも注目し,(最近一部でリバイバルが来ている)リー代数の言葉でその数理構造にも迫ります.

プラズモンは特異な光学的特性を持つことで様々な分野で重要となるだけでなく,さらにポラリトンやエキシトンとも縁が深いものです.もし少しでもプラズモンに興味をお持ちになったのなら,ぜひ本分科会にご参加してくださると嬉しいです.「この第二分科会に参加してよかった!!」と皆さんが思えるよう担当者としてお手伝いします.

皆さん一緒に魅力溢れるプラズモンを学びましょう.