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第五分科会

非線形分光の基礎と超高速分子ダイナミクス研究への応用

講師: 竹内 佐年 先生 (理化学研究所 専任研究員  

紹介文:
1960年にレーザーが発明されて以来、極限をみてみたいという研究者らの好奇心としのぎを削るような努力により、時間幅の短いレーザーパルス光が次々と実現されてきました。今やフェムト秒(= 10-15秒)時間領域のパルス光は比較的容易に発生させることができるようになり、研究の最前線ではアト秒(= 10-18秒)時間領域のパルス光の発生が精力的に追究されています。超短パルス光では極めて短い時間内に光電場が集中するため、白熱電灯のような通常の光源では実現できないような瞬間的に大きな尖頭強度をもつ光電場が発生します。このような強い光電場の照射を受けた物質中には非線形分極が生じ、和周波光発生や非線形ラマン散乱などの、弱い光だけでは起こらない様々な現象が観測されるようになります。これらの非線形光学現象は単に強い光電場によって引き起こされる特殊な現象ではなく、例えばレーザー出力光の波長を望みのものに変える技術や物質の表面分子だけを選択的に観測したり分子の構造変化を追跡したりする分光に幅広く活かされています。非線形光学過程は今や、分子レベルの静的・動的性質を探る重要な分光手法とそれを支える実験技術の基盤になっているのです。この意味で、分光学による分子科学研究を推進するためには非線形光学過程を含めた光と分子の相互作用を分子の目線で理解することが欠かせません。

ほぼすべての現実の物質系の光学過程には緩和が深く関わっています。このため、分光過程の理解のためにはシュレディンガー方程式だけでなく密度行列による系の記述が必須ですが、この種の問題について初学者のレベルで分かりやすく書かれた教科書は意外と少なく、また化学系の授業で習う機会も少ないのが現状だと思います。そこで本分科会では、光と分子の相互作用を時間軸に沿った摂動の連なりと捉えることにより、様々な線形および非線形光学過程を見通し良く記述し、それらを“最短経路”で理解することをめざします。一次~三次の各次数の光学過程の例として電子吸収、和周波光発生、非線形ラマン散乱などを具体的に取り上げ、対応する分極や電気感受率に対する表式を求めることによりそれぞれの分光の背後にある光学過程についての理解を深めます。また超短パルス光を用いた非線形分光実験の仕組みと技術の最前線を紹介し、分子の電子状態や構造、それらの変化がどのような信号として観測されるのかを実例を交えながら解説します。



担当:  小林 柚子 (京都大学 松本研究室 M2)

担当連絡先:    sec5_at_ymsa.jp
※担当連絡先はお手数ですが「_at_」を@に変えて頂きますよう、よろしくお願い致します。

担当者コメント:

第五分科会では、理化学研究所の竹内佐年先生をお招きして線形・非線形分光を光と分子の相互作用という観点から体系的に解説していただきます。竹内先生は超短パルス光を用いた時間分解分光の第一人者です。卓越した実験技術によって高い時間分解能の分光実験を可能にし、さまざまな系において光化学反応がどのような過程で起こるのか、を明らかにされてきました。

「化学反応はどのように起こるのか」

この基本的な問いに答えるために強力な手法が分光です。電子吸収、発光、ラマン分光など、それぞれの分光手法でどんな情報が得られるかは学ぶ機会が多い一方で、なぜそのような情報が得られるのかについては、曖昧な理解に終わっている人が多いのではないでしょうか。本分科会では、光と分子の相互作用という基礎的な観点から線形・非線形分光を整理して理解することを目指します。さらに、高度な時間分解分光の手法や明らかになった化学反応のダイナミクスもご解説いただきます。

分光をやっている方にとっては理論と実験の両面から改めて理解する絶好の機会です。そうでなくても、分光学や化学反応のダイナミクスにご興味のある方はぜひ一緒に勉強しましょう。

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