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第一分科会

分子科学における代数理論:振動ダイナミクスへの応用を中心に

講師: 佐甲 徳栄 先生 (日本大学 准教授  

紹介文:
原子・分子が躍動するミクロの世界では、対称性が重要な役割を演じます。これは、多くの化学系の学科において、数学科においてすら必ずしも必修ではない「群論およびその表現論」がカリキュラムに組み込まれていることからも分かると思います。点群等の空間的な対称性については、分光学や量子化学計算おいて古くから多くの応用がなされてきました。一方近年、「系の動力学的な性質」に基づく対称性であるdynamical symmetryに関心が集まっています。
 卑近な例として、水素原子の束縛準位のエネルギー構造を考えてみましょう。水素原子のエネルギー準位はご存知の通り、主量子数n、方位量子数l、および磁気量子数mによって指定されます。磁気量子数mに関する2m+1個の準位は外場が無視できる場合は縮重し、この縮重は空間の等方性を考えることによって自然に理解できます。一方、水素原子では同じ主量子数nに属する異なる軌道角運動量lの状態(例えば、(2s2p)や(3s3p3d)など)も全て縮重しています。異なる軌道角運動量を持つ状態が同じエネルギーを持つ物理化学的理由は何でしょうか。この水素原子における特異な縮重は「クーロン縮重」と呼ばれており、dynamical symmetryの一例です。すなわち、空間的な対称性ではなく、電子-核引力がクーロン力であることに起因する、系の動力学的性質に由来する縮重になります。
 系が何らかの対称性を持つ場合には、そのエネルギー準位には縮重が現れます。この縮重を持つ特徴的なエネルギー準位構造は、分光学における状態の帰属に役立つだけでなく、その量子系を支配する力の法則や、さらには、「系がどのような運動をしているのか」という動力学的な情報を与えてくれます。本分科会では、dynamical symmetreyの応用として、特に原子核の複雑なエネルギー準位構造の解析から生まれた「代数アプローチ」と呼ばれる理論に着目し、多原子分子の振動や化学反応への応用を基礎から学んでいきます。


担当:  久賀谷 有人 (慶應義塾大学 藪下研究室 M1)

担当連絡先:    sec1_at_ymsa.jp
※担当連絡先はお手数ですが「_at_」を@に変えて頂きますよう、よろしくお願い致します。

担当者コメント:
第一分科会では、日本大学の佐甲徳栄准教授をお招きし、分子科学における代数理論の基礎、そして振動ダイナミクスを中心に、その応用を講義して頂きます。
 代数アプローチとは何でしょうか。量子力学を学んだことがある方は、例えば調和振動子や角運動量の議論において、昇降演算子を見かけたことがあると思います。これを利用すると、微分方程式を直接解かずに、各種行列要素の計算ができたり、ハミルトニアンを表現したりすることができ、非常に有用です。その昇降演算子を特徴づけているのは、演算子の「交換関係」であり、そこにはLie代数と呼ばれる理論が潜んでいます。これを駆使する方法――つまり、量子力学の根底を支配している代数に注目する方法――が代数アプローチです。
 代数アプローチの理論は、有限群よりも増して難解であり、またその応用が分かりやすく書かれた本はなかなかありません。独学することは困難といえるでしょう。ゆえに本分科会は、代数アプローチを基礎からしっかりと学びつつ、それがどのように応用されるのかを知るには絶好の機会です。皆様の参加をお待ちしております。
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