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第二分科会

分子科学者のための磁性理論入門

講師: 岸根 順一郎  先生 (放送大学 教授)

紹介文:
本講義では「スピンと磁性」をテーマに,化学系出身の大学院生を念頭に固体の量子論、対称性理論、相転移論およびこれらを記述する基本言語である量子・統計力学および場の理論の手法を解説します.具体的な内容(予定)は以下の通りです.磁性は広大な分野なので,欲張ると散らかり放題になってしまいます.これを避けるため,テーマを絞って物理のエッセンスを伝えることに重点を置きます(といいながらかなり欲張っていますので,実際には少し切り詰める可能性があります). 


1. スピンの起源 

スピンは相対論と量子論の結合から自然に生まれてきます.ここでは,ディラックの電子論からどのようにしてスピンが導かれるかを解説します(相対論の知識は仮定しません).また,スピンの波動関数がスピノールとして表現されることを示し,そこから導かれる不思議な性質を紹介します.スピン間の交換相互作用が電子の置換対称性からどう導かれるかにも触れます. 


2. たかがイジング,されどイジング 

磁性を記述するもっとも簡単なモデルであるイジング模型の本質に迫ります.ごく簡単なイジング模型ですが,実は汲めども尽きぬ深みと豊かさを持っています.イジングスピンのダイナミクスを中心に解説し,古典論と量子論のつながりにも言及します. 分子の超常磁性や磁気相転移の仕組みにも触れます. 


3. スピンの量子ダイナミクス 

スピンの運動方程式は,驚くべきことに古典論でも量子論でも同じ形を持ちます.その理由から始め,スピンの量子ダイナミクスの特徴を二準位系を例に解説します.磁気共鳴の原理にも触れます. 


4. 分子の量子磁性 

スピンクラスター(分子磁石)の磁化の理論を題材に,経路積分によるスピン系の量子化について解説します.ここは,本講義の山場の一つとなります.統計力学と経路積分との関連,ベリー位相とトポロジーなど現代物理学の重要概念がいくつも現れます.このテーマは数学的も興味深い内容を含みます.物理,化学,数理の絶妙な結合を味わっていただければと思います. 


5. 結晶対称性と磁気秩序

 対称性と群論の基礎から初めて,結晶点群・空間群,相転移のランダウ理論,そして磁気秩序を分類整理する方法である磁性表現論のエッセンスを解説します. 


6. Chiralityと磁性

 最後に,私(岸根)自身の研究内容を踏まえてキラル対称性(左右対称性)の破れを指導原理とする物質機能の探求について話します.キラル構造は非対称・非線形・非局所という普遍的特性を持ちます.これが電気・磁気・力学的な自由度間の結合をもたらし,多様な物質機能が生まれます.その仕組みを説明します.私たちが進めてきたキラル螺旋磁性体の研究を簡単に紹介し,磁性分野を超えて「キラル物質科学」という新しい分野を開拓する必要性と意義を語りたいと思います. 




担当:    坂本 想一(京都大学 谷村研究室 M2 )

担当連絡先:    sec2_at_ymsa.jp
※担当連絡先はお手数ですが「_at_」を@に変えて頂きますよう、よろしくお願い致します。

担当者コメント:

 第二分科会では放送大学の岸根順一郎先生をお招きして、スピンと磁性について解説して頂きます。岸根先生はカイラル磁性等磁性理論の第一線でご活躍されております。また分子科学研究所に在籍していたこともあり、分子科学にも造詣の深い先生です。 

 スピンというものは純量子力学的な概念であり、その理解は中々に難しいです。しかしながら化学の講義ではその物理的な起源は十分に語られること無く、結果として曖昧な理解のまま終わってしまうことが少なくありません。そこで本分科会ではスピンの起源から始め、その物理的な本質を学び、曖昧な理解から脱却することを目標とします。そしてスピンへの理解を基に磁性へと話を進め、物性物理学の最前線に到達することを目指します。スピンと磁性という、難解な分野をしっかりと理解できる絶好の機会です。皆様の参加をお待ちしております。